「くぅっ……!?」
かけられた声にハッとして顔を上げると、
いつの間にか目の前に片桐がやってきていた。
憎々しさのあまりについ声が漏れ、
私は不快感をぶつけるように、
片桐のニヤついた顔をきつく睨みつける。
「んん? そんなに顔をこわばらせてどうしたんだ。
 さすがの望月でも、Y字バランスはキツかったか?」
(し、白々しい男……!
 私がどんなにつらいかわかっているくせに、
 よくもヌケヌケと……!)
当たり障りのない笑顔と共に
飄々と言ってくる片桐に、
怒りの炎はさらに熱く燃え上がった。
(誰のせいでそうなってると思ってるのよっ……!
 ふざけたこと言わないで、クズっ!)
(教師面して近寄ってきて……
 からかいに来たのはわかってるのよっ!
 いちいち癪に障ることをする男ねっ……!)
「んんぅっ、ふうっ……心配は無用です。
 これくらい、なんてことありませんから」
胸の内に溢れんばかりに募る憤りを押し殺し、
私は何事もないように平然を装って、
片桐の問いに答える。
何があろうと弱みなんて見せられない……
見せればますますこの男をつけ上がらせるだけだ。
「ですから、私のことは気にしないで。
 もっと他の人を見てあげたらどうかしら?」
「うーむ、俺の気のせいだったのかな……?
 足の上がり方が以前に比べると足りなく見えたから、
 つらいのに無理してるんじゃないかって思ったんだよ」
(くうぅっ……! うぅ、このっ!
 見てるだけだと思ってたらっ……!)
「んんっ、ふうぅっ……!
 それは心配をかけてしまいましたね。
 では、これぐらい上げればいいでしょうか?」
心配する素振りを見せつつも暗にもっと足を上げるよう
命じてくるこの男に不愉快さを覚えるも、
私はそれを一切表には出さず、言われた通りにする。
ふだんなら何の問題もなくこなせることだが、
乳首と股間に与えられる刺激で身体からは力が抜け、
情けなくも両足がプルプルと震えてしまう。
「ほう、見事じゃないか。
 これだけ足を高く上げられるとは、さすが望月だ」
(っ……!? この変態教師っ……!
 白々しく賞賛して――)
「ひうぅぅっ……!?」
そこで急に振動がさらに強くなり、
不意を突かれた私はバランスを崩してしまう。
「くうっ! んんっ、ふうぅっ……!」
すんでのところで持ち直して体勢を整え、
なんとかY字バランスの形を崩さずに乗り切った。
「おっと……! 大丈夫か、望月?
 体調が優れないなら無理はしない方がいいぞ」
「んんっ、くぅっ……!
 いえっ……何でもありません。
 ちょっと気が緩んだだけですからっ……!」
(コイツ、どこまでも私に絡んでくるつもりなの……!?
 早くどこか行きなさいよっ、この変態っ!)
(うぅ、でも急に振動が強くなったのはどうして……?
 今のは気のせいなんてレベルじゃなかったけど……)
「ふぅん、そうか……
 何でもないならいいんだがな」
そう言い、片桐は口元を吊り上げると、
ポケットに入れた手をモゾモゾと動かす――

※「片桐」は主人公の初期設定の姓です。主人公の姓名は変更可能です。